2020年のパンデミックをきっかけに加速したリモートワークは、2025年の現在、もはや特別なものではなくなりました。
多くの企業がハイブリッドワークを導入し、オフィスに毎日出社する働き方は過去のものとなりつつあります。
こうした変化の中で注目されているのが「持たない経営」という考え方です。
固定資産を最小限にし、柔軟性と効率性を最大化する――この新しい経営スタイルが、なぜ今求められているのでしょうか。
リモートワーク常態化の現状
まず、2025年時点での働き方の変化を確認しましょう。
数字で見るリモートワークの浸透
総務省の調査によると、2025年時点で従業員300人以上の企業の約75%がリモートワークまたはハイブリッドワークを導入しています。完全出社に戻った企業は20%程度にとどまっています。
特にIT、金融、コンサルティング業界では、週5日出社を求める企業はほとんど見られなくなりました。
働く場所の多様化
オフィス以外の働く場所も多様化しています。
主な勤務場所
- 自宅:50%
- オフィス:25%
- コワーキングスペース:10%
- カフェ:8%
- その他(実家、ワーケーション先など):7%
もはや「オフィスで働く」ことは、選択肢の一つに過ぎません。
若い世代の価値観の変化
特に20代〜30代の若い世代は、通勤時間を無駄と考え、リモートワークを当然の権利として捉えています。「完全出社」を求める企業は、採用活動で不利になる時代です。
「持たない経営」とは何か
こうした変化を背景に、新しい経営スタイルが生まれています。
持たない経営の定義
「持たない経営」とは、固定資産を最小限に抑え、必要なリソースを必要な時だけ利用する経営手法です。
持たないもの
- 自社オフィス
- 社有車
- 大量の在庫
- 自社サーバー
- 正社員中心の組織
代わりに使うもの
- バーチャルオフィス、レンタルオフィス
- カーシェア、レンタカー
- ジャストインタイム在庫管理
- クラウドサービス
- フリーランス、業務委託の活用
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従来の経営との違い
従来型経営
- 立派な本社ビルを構える
- 社員は毎日出社
- すべてを自社で保有・管理
- 固定費が高い
- 変化への対応が遅い
持たない経営
- 必要最小限の拠点
- 場所を選ばない働き方
- 必要なものだけを借りる・使う
- 固定費が低い
- 柔軟に変化に対応
持たない経営のメリット
なぜこの経営スタイルが注目されているのでしょうか。
コスト削減
最大のメリットは、固定費の大幅な削減です。
削減できる主なコスト
- オフィス賃料:月額数十万円〜数百万円
- 水道光熱費:月額数万円〜数十万円
- オフィス家具・備品:初期投資数百万円
- 通勤交通費:社員一人あたり月額数万円
- 駐車場代、社有車維持費
これらを削減すれば、年間で数百万円から数千万円のコスト圧縮が可能です。
キャッシュフローの改善
固定費が低いということは、売上が少ない時期でも経営が安定します。スタートアップや小規模事業者にとって、これは生存率を大きく高めます。
柔軟性の向上
市場環境が変化した時、素早く対応できます。事業規模を拡大する時も縮小する時も、固定資産に縛られません。
優秀な人材の獲得
場所にとらわれない働き方を提供できるため、全国(さらには世界中)から優秀な人材を採用できます。
環境負荷の低減
通勤が減ることで、CO2排出量が削減されます。ESGの観点からも、持たない経営は評価されます。
持たない経営の実践例
具体的にどう実践すればいいのでしょうか。
オフィスの持たない化
段階1:バーチャルオフィスで法人登記 月額数千円で都心の住所を確保し、郵便物も管理できます。
段階2:必要な時だけ会議室をレンタル クライアントとの商談やチームミーティングは、時間貸しの会議室で対応します。
段階3:コワーキングスペースの活用 チームメンバーが集まる必要がある時だけ、コワーキングスペースを利用します。
年間コスト比較
- 従来型オフィス:300万円〜
- 持たない経営:30万円〜
10分の1以下のコストで、ほぼ同等の機能が実現できます。
ITインフラの持たない化
クラウドサービスの活用 自社サーバーを持たず、すべてクラウドで管理します。
- ファイル保管:Google Drive、Dropbox
- 会計:freee、マネーフォワード
- 勤怠管理:ジョブカン、KING OF TIME
- プロジェクト管理:Notion、Asana
- コミュニケーション:Slack、Microsoft Teams
初期投資ゼロで、月額数万円から始められます。
人材の持たない化
フレキシブルな雇用形態 すべてを正社員で固めるのではなく、業務に応じて最適な雇用形態を選びます。
- コア業務:正社員
- 専門業務:業務委託、フリーランス
- 一時的な業務:パート、アルバイト
- プロジェクト型:外部パートナー
必要な時に必要なスキルを持つ人材を活用することで、固定人件費を抑えられます。
在庫の持たない化
ドロップシッピングやジャストインタイム 在庫を抱えず、注文が入ってから仕入れる方式にすれば、在庫リスクがゼロになります。
ECビジネスでは、自社倉庫を持たず、Amazon FBAなどの物流サービスを活用する方法もあります。
持たない経営の注意点
メリットばかりではありません。注意すべき点もあります。
信頼性の問題
バーチャルオフィスだけでは、大手企業との取引で不利になる可能性があります。業種や取引先によっては、実オフィスが必要な場合もあります。
チームビルディングの難しさ
リモートワーク中心だと、メンバー間の結束が弱くなりがちです。定期的なオフラインミーティングやチームイベントが必要です。
セキュリティリスク
クラウドサービスに依存すると、サービス障害やセキュリティ侵害のリスクがあります。バックアップやセキュリティ対策の徹底が必要です。
業種による向き不向き
製造業や医療、飲食など、物理的な場所が必要な業種では、持たない経営の実践が難しい場合があります。
持たない経営に向いている業種
どんなビジネスが、このスタイルに適しているでしょうか。
相性の良い業種
- ITサービス、ソフトウェア開発
- Webマーケティング、広告代理店
- コンサルティング
- オンライン教育
- コンテンツ制作、クリエイティブ
- ECビジネス(在庫を持たない場合)
- 士業(弁護士、会計士など)
相性の悪い業種
- 製造業
- 医療、介護
- 飲食、宿泊
- 建設業
- 物流、運送
ただし、相性が悪い業種でも、部分的に持たない経営の要素を取り入れることは可能です。
2025年以降の展望
持たない経営は、今後さらに広がると予想されます。
若い世代の起業が増える
固定費が低いため、若い世代が少ない資金で起業しやすくなります。20代で法人を設立するケースが増えるでしょう。
地方からの起業が増える
場所にとらわれないビジネスモデルが一般化すれば、地方在住でも都心の企業と対等に競争できます。地方創生の一つの形になる可能性があります。
大企業もオフィス縮小
大企業も、すべての社員が入れるオフィスは不要と判断し始めています。今後、オフィス面積を半分以下に縮小する企業が増えるでしょう。
新しい働き方の標準化
2030年頃には、「持たない経営」は特別なものではなく、当たり前の選択肢の一つになっているはずです。
まとめ
リモートワークの常態化は、単なる働き方の変化ではなく、経営そのものを変えています。「持たない経営」は、この変化に対応した新しいビジネスモデルです。
固定資産を減らし、柔軟性を高めることで、変化の激しい時代を生き抜く力が生まれます。特にこれから起業する人、事業を拡大したい人にとって、持たない経営は有力な選択肢となるでしょう。
ただし、すべてを持たなければいいというわけではありません。自分のビジネスに何が本当に必要で、何が不要か――この見極めが、持たない経営を成功させる鍵です。
2026年は、働き方改革の次のステージです。柔軟に、賢く、持たない経営を取り入れていきましょう。
