ステンレスは、耐食性や耐熱性に優れた材料として、食品機械、医療機器、化学プラント、建築部材など幅広い分野で使用されています。
しかし、金属加工の現場では「難削材」として知られ、通常の鉄やアルミと同じ条件では加工できません。
本記事では、ステンレス加工の難しさの理由と、美しく高精度に仕上げるための具体的な対策について解説します。
ステンレスが難削材である理由

加工硬化が激しい
ステンレスの最大の特徴は、加工中に硬化する「加工硬化」という現象です。切削工具が材料に触れると、その部分が急速に硬くなり、次に工具が通る時には硬化した部分を削ることになります。これにより工具の摩耗が激しく、刃先の寿命が短くなります。
熱伝導率が低い
ステンレスは鉄の約3分の1という低い熱伝導率を持ちます。切削時に発生した熱が材料内部に逃げにくいため、工具刃先に熱が集中します。その結果、工具の温度が上昇し、摩耗や破損が発生しやすくなります。
切りくずの処理が困難
ステンレスの切りくずは粘り気があり、長く連続した形状になりやすい特性があります。この切りくずが工具や工作物に絡みつくと、表面品質の低下や工具破損の原因となります。
構成刃先が発生しやすい
切削中に材料の一部が工具に溶着する「構成刃先」が形成されやすく、これが加工面の品質を低下させます。特に低速切削時に発生しやすい現象です。
製造業の自動化設備では、清浄性や耐食性が求められる環境でステンレス部品が多用されます。ロボットティーチング用の治具や食品製造ラインの部品など、高精度と美観を両立させる必要がある部品では、適切な加工技術が不可欠です。
ステンレス加工を成功させる5つの対策
1. 適切な工具選定
ステンレス加工には、専用の切削工具を使用することが基本です。
推奨される工具
- 超硬工具(耐熱性と耐摩耗性に優れる)
- コーティング工具(TiAlNコーティングなど)
- ステンレス専用エンドミル
- 鋭利な切れ刃を持つ工具
工具の摩耗が進むと加工硬化が促進されるため、早めの工具交換が重要です。
2. 切削条件の最適化
ステンレスの切削では、切削速度と送り速度のバランスが重要です。
基本的な切削条件
- 切削速度:炭素鋼の50~70%程度に設定
- 送り速度:やや大きめに設定して切りくずを厚くする
- 切り込み量:浅く多数回に分けるより、適度な切り込みで効率化
- 構成刃先を避けるため、極端な低速は避ける
愛知のロボット関連企業では、精密なステンレス部品の需要が高まっています。
イレイズグループのように、ステンレス加工の経験が豊富な業者であれば、材質や形状に応じた最適な切削条件を設定できます。
金属加工の特急納品も可能です。
特に加工の小ロット対応が必要な試作段階では、条件出しのノウハウを持つ業者との連携が重要です。
3. クーラントの効果的な使用
切削油(クーラント)は、ステンレス加工において極めて重要な役割を果たします。
クーラントの役割
- 切削点の冷却
- 工具寿命の延長
- 切りくずの排出促進
- 加工面の品質向上
水溶性クーラントを大量に供給することで、熱による問題を大幅に軽減できます。内部給油機能を持つ工具を使用すると、さらに効果的です。
4. 切りくず対策
長く連続した切りくずは、加工の大敵です。
切りくず処理のポイント
- 送り速度を調整して切りくずを短く分断
- エアブローによる切りくずの除去
- 工具形状の工夫(チップブレーカー付き工具の使用)
- 定期的な切りくず除去の確認
5. ワークの固定と剛性確保
ステンレスは粘り強い材質のため、切削抵抗が大きくなります。
固定のポイント
- しっかりとしたクランプで振動を防止
- 薄肉部品では変形を防ぐ治具の使用
- 加工機械自体の剛性も重要
- びびり振動の発生を抑える工夫
ステンレスの種類による加工性の違い
SUS304(最も一般的)
オーステナイト系ステンレスで、耐食性と加工性のバランスが良い材料です。最も広く使用されていますが、加工硬化しやすい特性があります。
SUS316(耐食性重視)
SUS304より耐食性が高く、化学プラントや医療機器に使用されます。加工性はSUS304とほぼ同等ですが、やや難しくなります。
SUS430(磁性あり)
フェライト系ステンレスで、比較的加工しやすい特性があります。耐食性はオーステナイト系より劣りますが、コストが安く、磁石がつく特徴があります。
仕上げ面を美しくするための工夫
研磨加工の活用
切削加工後に研磨を施すことで、より美しい仕上げ面が得られます。
- バフ研磨:鏡面仕上げに最適
- サンドブラスト:均一なマット仕上げ
- 電解研磨:化学的に表面を平滑化
適切な工具経路設計
マシニング加工では、工具経路の設計により仕上げ面の品質が大きく変わります。
- 仕上げ代を適切に残す
- 工具の逃げ角度を考慮した経路設定
- 最終パスは軽い切り込みで仕上げる
発注時の注意点
ステンレス部品を外注する際は、以下を確認しましょう。
確認事項
- ステンレス加工の実績と経験
- 保有する設備と工具の種類
- 対応可能なステンレスの種類
- 仕上げ方法の選択肢(研磨の有無など)
- 納期(通常材より時間がかかる場合がある)
製造業の自動化設備用のステンレス部品では、精度と外観の両方が求められるケースが多いため、実績のある業者を選ぶことが重要です。
経験とノウハウが品質を左右する
ステンレス加工は、材料の特性を理解し、適切な工具選定と切削条件の設定を行うことで、美しく高精度な仕上げが可能になります。加工硬化や熱の問題に対処するには、経験に基づいたノウハウが不可欠です。
ステンレス部品を発注する際は、難削材の加工実績が豊富で、適切な設備と技術を持つ業者を選ぶことが成功の鍵となります。信頼できるパートナーとの連携により、高品質なステンレス部品を安定して調達できる体制を構築しましょう。
