製造業 自動化を進める上で、協働ロボットと既存設備との通信連携は極めて重要です。しかし、工場で使用されている通信規格は多岐にわたり、適切な対応がなされていないと、せっかく導入したロボットが既存ラインと連携できないという事態に陥ります。
本記事では、製造現場で広く使われている産業用通信プロトコル「Modbus」「CC-Link」「Profinet」を中心に、それぞれの特徴と、自社の通信規格に合わせた協働ロボットの選定方法を詳しく解説します。
産業用通信プロトコルとは何か
産業用通信プロトコルとは、工場内の設備同士が情報をやり取りするための「共通言語」です。人間が日本語や英語で会話するように、機械同士も共通のルールに従ってデータを交換します。
なぜ通信プロトコルが重要なのか
従来の製造設備は、リレーや配線による物理的な信号でやり取りしていました。しかし、この方法では以下の課題がありました。
従来の課題
- 配線数が膨大になり、制御盤が複雑化
- 送れる情報が単純なON/OFF信号のみ
- 故障時のトラブルシューティングに時間がかかる
- 設備追加時の配線変更が大変
産業用通信プロトコルを使用することで、1本のケーブルで複数の設備と大量のデータをやり取りでき、配線の簡素化と情報共有の高度化が実現します。
通信プロトコルを使用するメリット
配線の簡素化
数十本の信号線を1本のイーサネットケーブルに集約できます。これにより、制御盤内がすっきりし、配線ミスも減少します。
リアルタイムデータの活用
ロボットの現在位置、稼働状態、エラー情報などを常時PLCが把握でき、より高度な制御が可能になります。
拡張性の向上
新しい設備を追加する際も、ネットワークに接続するだけで済み、大規模な配線変更が不要です。
生産データの収集
作業サイクルタイム、生産数量、エラー履歴などのデータを自動収集し、生産管理システムと連携できます。
主要な産業用通信プロトコルの特徴
工場で使用される代表的な通信プロトコルを詳しく見ていきましょう。
Modbus(モドバス)
概要
1979年に米国Modicon社が開発した、最も歴史があり汎用性の高いプロトコルです。シンプルで実装しやすいため、世界中の様々な設備で採用されています。
種類
- Modbus RTU:シリアル通信(RS-485)を使用
- Modbus TCP:イーサネット通信を使用
特徴
- オープン規格で無償利用可能
- 対応機器が非常に多い
- 比較的低速だが十分な実用性
- 設定が比較的簡単
適している用途
中小規模の製造ラインで、PLCと協働ロボット、センサー、インバーターなどを接続する場合に最適です。特にメーカーを問わず様々な設備を統合する際に有効です。
CC-Link(シーシーリンク)
概要
三菱電機が開発し、CC-Link協会が管理する日本発の産業用ネットワークです。日本国内、特に自動車産業で高いシェアを持ちます。
種類
- CC-Link:標準版
- CC-Link IE(Industrial Ethernet):高速版
- CC-Link IE TSN:最新の時刻同期ネットワーク対応版
特徴
- 三菱電機製PLCとの親和性が高い
- 日本国内でのサポート体制が充実
- 高速・大容量データ通信が可能
- 日本語ドキュメントが豊富
適している用途
三菱電機製PLCを使用している工場、自動車部品メーカーのサプライチェーン、日本国内での展開が中心の製造ライン。
愛知 ロボット導入においては、自動車産業のサプライヤーがCC-Link対応を要求するケースが多く見られます。
Profinet(プロフィネット)
概要
ドイツSiemens社が中心となって開発した、ヨーロッパで広く採用されている産業用イーサネット規格です。
特徴
- 高速通信が可能(リアルタイム性が高い)
- Siemens製PLCとの親和性が高い
- ヨーロッパの工作機械メーカーで広く採用
- 診断機能が充実
適している用途
Siemens製PLCを使用している工場、ヨーロッパメーカーの設備を多く導入している製造ライン、高速・高精度な制御が必要な工程。
EtherNet/IP(イーサネット・アイピー)
概要
米国Rockwell Automation社が推進する産業用イーサネット規格で、北米を中心に普及しています。
特徴
- 標準的なイーサネット技術を活用
- 北米での採用率が高い
- Allen-Bradley製PLCとの親和性が高い
- オフィスネットワークとの統合が容易
適している用途
北米市場向け製品の製造ライン、Rockwell Automation製機器を使用している工場。
EtherCAT(イーサキャット)
概要
ドイツBeckhoff社が開発した超高速産業用イーサネット規格です。
特徴
- 極めて高速な通信(サイクルタイム100μs以下)
- 多軸の同期制御に最適
- モーション制御に強い
適している用途
多軸ロボットの高精度同期制御、半導体製造装置、高速ピック&プレース装置など、極めて高いリアルタイム性が求められる用途。
自社に合った通信規格の選び方
協働ロボットを選定する際、自社の通信環境に適した機種を選ぶための手順を解説します。
ステップ1:現状の通信規格の確認
まず、自社で現在使用している通信規格を確認しましょう。
確認方法
- 使用しているPLCのメーカーと型番を調べる
- 制御盤内の通信モジュールを確認する
- 既存設備のマニュアルで対応プロトコルを確認
- 設備導入時のシステムインテグレーターに問い合わせる
多くの場合、PLCメーカーによって主に使用される通信規格が異なります。
メーカーと主な対応プロトコル
- 三菱電機:CC-Link
- Siemens:Profinet
- オムロン:EtherNet/IP、EtherCAT
- キーエンス:Modbus TCP、EtherNet/IP
- Rockwell Automation:EtherNet/IP
ステップ2:協働ロボットの対応プロトコル確認
候補となる協働ロボットが、自社の通信規格に対応しているか確認します。
確認ポイント
- 標準で対応しているプロトコル
- オプションで追加できるプロトコル
- 通信速度と更新周期
- 接続可能な設備数
多くの協働ロボットは、標準でModbus TCP/RTUとデジタルIOに対応し、オプションで他のプロトコルに対応できる構成になっています。
ステップ3:ゲートウェイの必要性判断
ロボットが自社の通信規格に直接対応していない場合、ゲートウェイ(プロトコル変換器)を使用する方法があります。
ゲートウェイ使用のメリット
- ロボットの選択肢が広がる
- 異なるメーカーの設備を統合できる
ゲートウェイ使用のデメリット
- 追加コストが発生(10万円~50万円程度)
- 設定が複雑になる
- トラブル時の原因特定が難しくなる
- 通信遅延が増加する可能性
可能であれば、直接対応している協働ロボットを選定することが望ましいです。
ステップ4:将来の拡張性を考慮
現時点での対応だけでなく、将来の拡張も見据えた選定が重要です。
考慮すべき点
- 他の工場や拠点への展開計画
- 設備更新計画(PLCの世代交代)
- 取引先からの通信規格指定の可能性
- IoT・スマートファクトリー化の計画
特に愛知 ロボット市場では、自動車メーカーからの通信規格指定があるケースも多いため、事前確認が重要です。
通信規格対応における実践的なポイント
実際の導入現場で注意すべき実践的なポイントを紹介します。
ネットワーク設計の重要性
産業用ネットワークは、オフィスのLANとは異なる設計思想が必要です。
設計のポイント
- リアルタイム性の確保(通信遅延を最小化)
- ノイズ対策(産業環境特有の電気的ノイズ対策)
- 冗長化(通信障害時のバックアップ経路)
- セキュリティ(外部ネットワークとの分離)
専門知識を持つシステムインテグレーターのサポートを受けることをお勧めします。
ロボットティーチングと通信設定の連携
協働ロボットのティーチングを行う際、通信経由で受け取る信号に応じた動作を設定する必要があります。
設定例
- PLC信号「1」で動作開始
- 作業完了後、PLC信号「2」をON
- エラー発生時、PLC信号「3」をON
- PLCから受け取った数値データに応じて動作を変更
この設定により、ロボットが製造ライン全体と協調して動作できます。
データロギングと活用
通信接続により、ロボットの稼働データを自動収集できます。
収集すべきデータ
- 稼働時間と停止時間
- サイクルタイム
- エラー発生回数と内容
- 生産数量
このデータを分析することで、ボトルネックの特定や予知保全が可能になります。
製造業 自動化において、単なる作業の自動化だけでなく、データ活用による継続的改善が重要な価値を生み出します。
【FAIRINO正規代理店・公式保守認定企業】FAIRINO(フェアリノ・ファイリノ)では、Modbus TCP/RTUを標準搭載し、オプションでCC-Link、Profinet、EtherNet/IP、EtherCATに対応しています。多様な通信規格に対応できるため、既存のPLC環境を問わず柔軟に導入できます。
まとめ
協働ロボットを既存の製造ラインに統合する際、通信規格への適切な対応が成功の鍵となります。自社で使用しているPLCや制御システムの通信規格を正確に把握し、それに対応した協働ロボットを選定することで、スムーズな統合と高度な連携制御が実現します。
Modbus、CC-Link、Profinetなど、主要な産業用通信プロトコルにはそれぞれ特徴があり、業界や地域によって普及状況が異なります。自社の環境だけでなく、取引先からの要求や将来の拡張性も考慮した選定が重要です。
愛知 ロボット導入においては、自動車産業を中心にCC-Link対応が求められるケースが多い一方、多品種の設備を統合する場合はModbusの汎用性が有効です。ロボットティーチングだけでなく、通信設定を含めた総合的なシステム構築により、真に効果的な製造業 自動化が実現できるでしょう。