在宅ワークを始めたものの、全く集中できない。気づけばスマホをいじっている。目に入るものに次々と気が散る。やらなければならない仕事があるのに、なぜか部屋の片隅の掃除を始めてしまう――。
ADHDの特性を持つ人にとって、自宅で集中して仕事をすることは想像以上に困難です。オフィスという構造化された環境がない分、自分で集中できる環境を整える必要があります。
今回は、ADHD脳の特性を理解した上で、在宅ワークがはかどるデスク配置の具体的な方法をお伝えします。
なぜADHDの人は在宅ワークで集中できないのか
まず、集中を妨げる要因を理解しましょう。
刺激への過敏な反応
ADHD脳は、周囲の刺激に過敏に反応します。視界に入るもの、聞こえる音、肌に触れる感覚――これらすべてが注意を奪っていきます。
オフィスなら周りの目があり、ある程度強制力が働きますが、自宅ではその縛りがありません。テレビ、ベッド、冷蔵庫、ゲーム機――誘惑だらけの環境で集中を保つのは至難の業です。
ワーキングメモリの弱さ
「今、何をやろうとしていたんだっけ?」――作業の途中で別のものに気を取られ、元々の作業を忘れてしまう。これはワーキングメモリの弱さによるものです。
オフィスなら周りの人が仕事モードなので引き戻されますが、自宅では誰もそれを指摘してくれません。
構造化されていない時間
出社という行為自体が、「今から仕事モード」という切り替えのスイッチになっています。在宅ワークではこの境界線が曖昧になり、ダラダラと非効率な時間を過ごしてしまいます。
報酬の遅延
ADHDの人は、即時の報酬を強く求める傾向があります。仕事の成果は遅延報酬ですが、スマホやSNSは即時報酬をくれます。脳は自然と即時報酬の方に引き寄せられてしまうのです。
デスク配置の大原則
集中できるデスク環境を作るために、いくつかの大原則があります。
原則1:視界から誘惑を消す
デスクに座った時、視界に入るものすべてが集中力に影響します。仕事に関係ないものは、徹底的に視界から排除します。
原則2:刺激を最小限にする
色、物、音――刺激の量を意識的に減らします。シンプルであればあるほど、ADHD脳は集中しやすくなります。
原則3:動線を短くする
必要なものはすべて手の届く範囲に。立ち上がって取りに行く動作が、集中を途切れさせます。
原則4:儀式を作れる環境にする
「この椅子に座ったら仕事モード」というスイッチを作れる配置にします。
理想的なデスクの配置場所
まず、部屋のどこにデスクを置くかが重要です。
壁に向かって配置する
窓や部屋の中央ではなく、壁に向かってデスクを配置します。視界に入る情報量を最小限にするためです。
壁が白やベージュなど無地であれば理想的です。ポスターや装飾品も外しましょう。見えるものが少ないほど、集中は続きます。
ベッドが見えない位置に
ベッドが視界に入ると、「横になりたい」という誘惑が生まれます。デスクからベッドが見えない配置を選ぶか、パーテーションで仕切ります。
テレビから遠い場所
テレビが視界に入る位置は避けます。電源が入っていなくても、存在自体が気になってしまいます。
窓の位置に注意
窓から外の景色が見えると、気が散ります。ただし、自然光は必要なので、デスクは窓と平行か、窓を背にする位置が理想的です。
専用の作業部屋が理想
可能であれば、寝室やリビングとは別の部屋を作業部屋にします。物理的に空間を分けることで、仕事とプライベートの境界が明確になります。
ワンルームの場合は、カーテンやパーテーションで空間を仕切るだけでも効果があります。
デスク周りの具体的な配置
デスクの上と周辺を、どう配置すればいいのでしょうか。
デスクの上はミニマルに
デスクの上に置くものは、以下だけにします。
必須アイテム
- パソコン
- マウス(必要なら)
- メモ帳とペン1本
- 飲み物(水かお茶)
これ以外は、引き出しや棚にしまいます。視界に入る物が少ないほど、集中しやすくなります。
スマホは視界の外へ
最大の誘惑はスマホです。デスクの上に置くのは厳禁。別の部屋に置くか、引き出しの奥にしまいます。
どうしても手元に置きたい場合は、通知をすべてオフにし、画面を下にして引き出しの中に入れます。
モニターは目線の高さに
ノートパソコンを使っている場合、画面が低すぎると姿勢が悪くなり、疲労が集中力を奪います。モニターアームやラップトップスタンドで、目線の高さに調整します。
必要な文房具はペン立てに
頻繁に使うペン、付箋、ハサミなどは、デスク脇のペン立てに入れておきます。ただし、種類は最小限に。選択肢が多いと判断疲れが起きます。
書類は立てて収納
書類は平積みにすると下のものが見えなくなり、存在を忘れます。ファイルボックスに立てて収納し、背表紙にラベルを貼ります。
引き出しの中も整理
引き出しの中がぐちゃぐちゃだと、探すたびに集中が途切れます。仕切りを使ってカテゴリー別に整理し、何がどこにあるか一目で分かる状態にします。
集中を助けるアイテム
デスク周りに配置すると、集中力が高まるアイテムがあります。
ノイズキャンセリングイヤホン
周囲の雑音は、ADHDの人にとって大きな障害です。ノイズキャンセリング機能のあるイヤホンやヘッドホンで、音の刺激を遮断します。
無音が苦手な場合は、ホワイトノイズや自然音を小さく流すのも効果的です。
タイマー
ポモドーロテクニック(25分作業+5分休憩)を実践するために、タイマーを使います。デジタルよりも、シンプルなアナログタイマーの方が余計な機能がなくて良いです。
フィジェットトイ
手持ち無沙立な時に触れる小さなおもちゃ(フィジェットトイ)を一つだけ置きます。無意識に手を動かすことで、逆に集中が増す人もいます。
ホワイトボードまたは壁掛けカレンダー
タスクを視覚化するために、壁にホワイトボードを設置します。今日やるべきことを書き出し、終わったら消していくことで、達成感と次の行動の明確化ができます。
間接照明
蛍光灯の明るすぎる光は、刺激が強すぎることがあります。デスクライトや間接照明で、柔らかい光環境を作りましょう。
色の使い方
デスク周りの色も、集中力に影響します。
基本は白・グレー・ベージュ
刺激の少ないニュートラルな色を基調にします。派手な色は避けます。
アクセントカラーは青系
集中力を高める色として、青や緑が推奨されています。デスクマットやペン立てに青系の色を取り入れると良いでしょう。
赤や黄色は避ける
赤や黄色などの刺激的な色は、ADHD脳を興奮させすぎます。デスク周りからは排除します。
環境を整えるその他の工夫
デスク配置以外にも、集中を助ける工夫があります。
室温を適切に保つ
暑すぎても寒すぎても、集中は途切れます。エアコンやヒーターで、常に快適な温度を保ちます。
換気を定期的に行う
CO2濃度が上がると、集中力が低下します。1時間に1回は窓を開けて換気します。
香りを活用する
ペパーミントやローズマリーの香りは、集中力を高めると言われています。アロマディフューザーを使うのも一つの方法です。
姿勢を整える
椅子の高さ、背もたれの角度、足の位置――姿勢が悪いと疲労が早く訪れます。エルゴノミクスに配慮した椅子とデスクの選択も重要です。
デスク配置のビフォー・アフター
実際にデスク環境を変えた方の例を紹介します。
ケース1:Aさん(30代、ライター)
ビフォー
- リビングのテーブルで仕事
- テレビが正面に見える
- 書類や本が散乱
- 集中時間:15分程度
アフター
- 寝室の一角にデスクを設置
- 壁に向かって配置
- デスクの上はパソコンと水だけ
- スマホは別室
- 集中時間:45分以上に改善
「環境を変えただけで、こんなに違うのかと驚きました。視界がシンプルになると、脳も静かになる感じがします」
ケース2:Bさん(20代、エンジニア)
ビフォー
- ベッドの上でノートパソコン
- 寝転びながら作業
- 気づくとSNSを見ている
- 1日の生産性:低い
アフター
- 専用デスクと椅子を購入
- 窓を背にして配置
- スマホは別の部屋の引き出しへ
- タイマーでポモドーロテクニック実践
- 1日の生産性:2倍以上に
「座る場所を変えるだけで、脳が仕事モードに切り替わります。ベッドは完全に休む場所と割り切れました」
継続のためのメンテナンス
良い環境を作っても、維持できなければ意味がありません。
1日の終わりにリセット
毎日、仕事を終える時に、デスクの上を元の状態に戻します。翌朝、綺麗な状態でスタートできることが重要です。
週1回の見直し
週に一度、デスク周りを見直します。不要な物が増えていないか、配置は最適か、確認します。
実験を続ける
最初から完璧な配置は作れません。試行錯誤しながら、自分に最適な環境を見つけていきます。
まとめ
ADHDの人が在宅ワークで集中するには、環境の力を借りることが不可欠です。意志の力だけでは、ADHD脳に勝てません。
デスクを壁に向け、視界から誘惑を消し、必要なものだけを配置する――シンプルですが、この基本を徹底するだけで、集中力は劇的に変わります。
完璧を目指す必要はありません。今日、一つだけ変えてみる。スマホをデスクから遠ざけるだけでもいい。小さな変化が、仕事の質を大きく変えていきます。
あなたの脳に合った環境を作って、在宅ワークを味方につけましょう。